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IKKI TANAKA データサイエンティスト Kaggle Master
TAKUMA YOSHIMURA プロダクトマネージャー
YUKI ABE データサイエンティスト Kaggle Master

リリース7年目を迎えた『逆転オセロニア』。
アプリゲーム界隈では毎年、エイプリルフールイベントの開催が恒例となっていますが、今年の『逆転オセロニア』エイプリルフール企画はSNSのトレンド入りするなど、大きな話題を集めました。
その立役者となったのが、AI が生み出した10,000体を超える架空のキャラクターたち。最先端の画像生成AIモデル「GAN」を実応用し、ゲーム内に実装した例としても注目を浴びました。

DeNAが現在取り組む、AI技術を応用したアセット開発。そのモデルケースとなった本企画のプロジェクトメンバーである阿部佑樹、吉村拓真、田中一樹の3名に、開発のスタートからゴールまで、詳しく話を聞きました。

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阿部佑樹(以下、阿部):
2021年に新卒として入社し、現在はデータ本部AI技術開発部第二グループにて、画像生成の研究開発を担当しています。大学や大学院でAIによる画像生成について研究していたことから、『逆転オセロニア』のエイプリルフールイベントにおける架空のキャラクター10,000体作成のAIモデル開発に取り組みました。

吉村拓真(以下、吉村):
データ本部のデータアナリティクス部AI推進グループに所属しています。DeNAのゲーム事業に対するAI活用の戦略的な推進を担う立場として3月まではゲーム事業本部のAI推進グループに籍を置いていましたが、その後、グループごとデータ本部に合流して今に至ります。

田中一樹(以下、田中):
阿部くんが所属するデータ本部AI技術開発部第二グループのマネージャーを任されています。今回の『逆転オセロニア』の画像生成プロジェクトや新しくリリースするゲームなど、主にエンタメ系案件にAIを活用していくことに取り組んでいます。

事業部へのオファーで始まった、ゲームへのAI技術導入

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田中:
まずは『逆転オセロニア』のエイプリルフールイベントに我々が関わることになったきっかけから始めましょうか。

吉村:
僕はオセロニアチームに在籍していたので、プロデューサーであるけいじぇいさんとは以前から「こんな技術があって面白いので、何かできないか」といった感じでAIに関する話をしていたんです。
そのうちの1つが、今回のプロジェクトに取り入れたアセット生成技術でした。

田中:
基本的に社内の事業部がAIの技術を使って何かやりたい、と思いつくことって大変なところがあると思うんですよね。まだ新しい分野ですし、その領域の専門家じゃないとどんなことができるか想像しづらいだろうし。今回扱っている生成技術なんかは特に新しいですしね。

当時から、生成技術を使ってAIがキャラクターを作るっていうのは今後伸びる分野だと確信していました。でも、研究はかなり進んでいるのに実用化は進んでいなかったんです。
そこを打破したくて、AIチームが社内のいろんなところに何かAIでできないかと働きかけを行っていたわけです。
AI技術をゲーム内に導入するための提案資料を作成してオセロニアチームに話を持っていったのが、プロジェクト発足のきっかけとなったので嬉しかったですね。

吉村:
我々はゲームの専門家ではないし、ゲーム事業部もAIの専門家ではない、というところで企画案をより具体的に詰める段階に入ると、かなり泥臭く会話することになるんですよね。
これはゲームに限った話ではないのですが、AI技術を扱う身として、できることできないことを伝えたつもりでも、普段AIに触れているわけではない方々と同じイメージを共有するのは難しいんです。

このプロジェクトではそこに齟齬が生じないよう苦心しました。AIチームから前のめりに提案をどんどん出していくことで理解を深めてもらうよう、ていねいなコミュニケーションを心がけましたね。

田中:
そしてプロジェクト検討段階に入ったところで、AIスペシャリスト枠で阿部くんが入社すること、しかも私たちが検討していた画像生成技術が専門だと知って「キター!」となったわけです(笑)。
2週間の新卒全体研修が終わった4月半ばに即、チームにジョインしてもらいました。

阿部:
新卒入社してすぐの配属で、当時の僕はまだコミュニケーション力がひよこ並み…。AIの専門家ではない方に、AI技術に関してどう説明すればイメージを共有できるか全然わからなかったんです。
当時は、いつも吉村さんに「こういう技術なんです!」っていうところを勢いで説明して、そこを吉村さんがオセロニアチームにうまく伝えてくださったという(笑)。
このプロジェクトを形にしていくにあたり非常にありがたいサポートでした。

オセロニアで画像生成技術を使って何か面白いことやろうよ、という話は出ていたけれど、エイプリルフールイベントで、というところまでは決まっていないフェーズだったので、いつ何をするかも含め、技術の側面からもいろいろな議論を重ねる必要がありました。

技術のリミットをカバーした発想の転換。チームワークで危機を乗り切る

AI illustrations ※画像はAIによって作成されたキャラクターたち

田中:
数年前まではAIによる画像生成技術は発展途上だったので実サービスで使おうと思うと「もう少し精度を上げたい」「ちょっと違和感がある」という評価になり、さらなる研究が必要でした。
ここ数年で技術が発展しましたが、現実的なコスト感で生成AIを作るのはもしかしたらまだ大変かもなと思う部分も正直あります。
ただ、阿部くんが入ってからはものすごい勢いで開発を進めてくれて、1番最初のアウトプットで既にオセロニアっぽいものは出ていたんです。とはいっても、やはり精度面に難があったんですよね。

阿部: 画像のクオリティは絶対条件。自分が知りうる中で1番きれいに画像をアウトプットできるのはこれです、という技術を使って画像生成すると、画像の美しさはアップするものの顔領域周辺しか生成できないといった感じで別の制約が生じるのが悩みでした。

オセロニアのキャラクターは基本的に全身画像が必要とされるので、顔だけではダメだろうと悩みました。精度上げるための技術が逆に自分の首を絞めていたんです。でも、それを救ってくれたのがエイプリルフールイベントへの落とし込み、という吉村さんの企画アイデアでした。

田中:
AIの性能を企画や世界観でカバーしようという話になり、どう落とし込んでいこうかと悩んでいたのが2021年の4〜6月くらい。
その頃の阿部くんは入社してすぐにかなり大きな壁にぶつかり、本当に大変だったと思います。

吉村:
精度ももちろん大切ですが、ゲームで用いられるキャラクター独自の世界観の再現、というのが最も高い壁なんです。
プレイヤーはその世界観を支持し、好いているからこそプレイしてくれる。何かしらの違和感を抱かせてしまうようなことは、あってはならないんです。

なので、精度とのギャップを埋めるのではなく、AIを使うこと自体をひとつのエンターテインメントにしてしまおう、と発想を転換することにしました。
これを思いついた時は最後のピースがはまった感覚がありましたね。
「実はこのキャラクター、AIが作ったんですよ」っていう驚きをユーザ体験として提供する方向に切り替えたんです。
画像生成は顔領域だけに限定して圧倒的物量でいこう、と(笑)。それが10,000体を超える架空の新キャラクターの投入、という企画になりました。

阿部:
あとはゲーム内で実際に使用できるプレイアブルなキャラクターも3体実装しましたが、その3体は画像もキャラクターボイスもAIで作ったっていうのも挑戦したところです。
キャラクターボイスはDeNAの音声AIのチームにご協力いただきました。

このプロジェクトの画像生成はコア技術にGAN (Generative Adversarial Networks) を採用しましたが、これがオセロニアの“らしさ”を堅持する上でよかったように思います。

オセロニアには絵師さんによって作成された約5000体のキャラクターが既に存在していますが、今回はそのうちの4000体位の顔周辺画像を画像生成するAIに学習させました。
それと共に、生成された画像を見てこれがAIによって作られたキャラクターなのか既に存在するキャラクターなのかを判別するAIも使ったんです。
判別するAIが「これ、どっちが作成したのかわからないな」って欺くことができるレベルにまで画像生成のAIを学習させる、というのがGAN技術の特徴で、オセロニアの世界観を頑張って複雑なルールベースで定義して学習させるよりも、より違和感のない画像を生成できるのが強みです。

田中:
世界観と精度がこの企画で1番気をつけたポイントです。AIって中身がブラックボックスというか、どういう挙動を起こすかわからないところがあるんですよね。
精度100%を目指すのは難しくて、がんばって99%にしたとしても、残りの1%が違和感として敏感に捉えられてしまうのが画像だと思うんです。
それを普段からオセロニアをプレイしているプレイヤーにオセロニアのキャラクターとして届けるわけですから、ものすごいプレッシャーを感じました。
だから、このエイプリルフールイベントを楽しんでもらってSNSでトレンド入りしたのは本当に嬉しかったです。

いい意味で新卒を新卒とは思わない。スペシャリスト採用

田中:
阿部くんは入社してすぐに実務を任されることになるとは思ってなかったのではないかと(笑)。

阿部:
全く思ってなかったですね。確かに学生の頃から画像生成の研究はしていたので、採用面接で「この技術が今後どんな風に実用化されるか楽しみにしてるんです」といった話をしたんです。
それがまさか、入社後すぐに画像生成技術をどう実用化していくかを考えていくことになろうとは……。

配属が決まった時点では、黙々とコードを書くみたいな、モニターを前に手を動かす姿しかイメージできていませんでした。
プロジェクトの立ち上げっていうAI技術そのものから一歩離れたところからのスタートは未経験だったので、大変でもあり新鮮でもありという感じでした。
学生時代と比較して、関わる人や関わり方など、「社会人って全然違うんだな」というのを実感しましたね。

田中:
厳しい仕事だったとは思うけれど、そこは新卒を新卒として見てないというか、逆に言うとものすごく期待していたんです。
あと、プロジェクトを立ち上げるところの醍醐味を早々に経験してもらいたかったので、意図的に巻き込んだところはあります。

吉村:
阿部くんの専門性が申し分ないことはAIスペシャリスト採用であることからもわかっていましたが、新卒に求められる能力は超えていたと思います。
主体性があって誠実で、自分やAIチームにとって都合の悪い事であってもはっきり意見してくれる、我々の疑問にもきちんと答えてくれる。一緒に働く仲間に期待したい要素をきっちり備えていた人材でした。

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阿部:
ほめられた(笑)。でもそれは発言しやすい空気が醸成されていたおかげだと思います。
新卒全体研修で「発言責任・傾聴責任」の話を聞いてすぐのことだったので「これか!」と実感しました。

田中:
阿部くんの、王道を泥臭く進む姿勢には素直に尊敬しました。
開発途中では壁にぶつかることって何度もあるんですよね。
壁に当たったらそれに対するアプローチの案をいくつか出して取り組んで乗り越えて、っていうことをひたすら繰り返してゴールに突き進んでいく。
それが最終的にいいものを作り上げる。
適切な技術を使って課題の本質を解決していくというのは最終的に成功するための近道でもあり王道なんですよね。

でもこの王道を進むのが実は1番難しいんです。
つい小手先の技術を使ってしまいたくなる。そもそもその王道を知らないと、っていうところもあるのですが、阿部くんが愚直に取り組んでくれたことが、このプロジェクトの成功につながった一因だと思っています。

吉村:
壁にぶつかった時に次に打つ手を取れる・考えられる人材は意外といなくてそういう点でも希少な人材なんですけど、阿部くんはそれに加えて画像生成に関する知識の引き出しがものすごく多い。
産んでくださった親御さんに感謝したいくらいです(笑)。

アセット活用をAI技術で加速させるチームづくりを

吉村:
このオセロニアの画像生成プロジェクトは、ほとんど実用化されていない技術検証を特定のプロダクトへ実応用してプレイヤーに届けることがメインでしたが、より広い範囲で社内にあるアセットの活用をAI技術で加速し、効率化させることがこれからの目標となるかと思っています。

AI人材は需要が高まる一方ですが、田中さんは今後の組織体制をどのように考えていますか?

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田中:
やはりアセット制作の支援をメインに据えたAIチーム体制の強化です。
今回用いた技術を発展させてアセット制作を支援していく取り組みを、社内社外問わず積極的に進めていきたい。
最新技術に挑戦して実応用まで持っていける強い組織にしたいという希望もあります。

現在はメタバースや仮想空間、AR、VRが広く普及しだしていますし、ゲームの現場も開発難易度が上がっていて、特に3D制作の需要が急拡大しています。
まずはニーズの確認と技術検証が先ですが、阿部くんがオセロニアで作ってくれたキャラクターを生成するようなAI技術を3D対応できるように進化させたり、3Dの中でも取り組みやすい2Dの領域を支援していったり、という必要性も感じています。

阿部:
AIの技術開発って時間もかかるしうまくいかない可能性もあるけども、新人でもチャレンジさせてもらえる土壌とコストに余裕があるのがDeNAのいいところでもあるな、と感じています。
でも、画像生成は現在僕1人でやっているので単純に手が足りていない状況で……。この技術に詳しい人にいろいろと教えてほしいです。

田中:
僕は、このAI生成技術はそのまま表舞台に出ることもできるけど、アセット制作のプロセスを支える縁の下の力持ち的な存在で威力を発揮すると考えているんです。
プロダクトの成長やプレイヤーに届けられる量や質の向上のために、AI技術をどんどん活用していきたいです。
今後も、今回のような新たなチャレンジをしたい方、AI技術を事業に応用したい方を広く募集してチーム力を強化していきたいと考えています。