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姫路LNG基地は、液化天然ガス(以下、LNG)を安定的に貯蔵し、供給する関西電力(以下、関電)の基地です。
各生産地からLNG船で届いたLNGは品質にバラつきがあり、それぞれの配送先が求める品質のガスを安定供給するためには、タンクへの受入れや混合などの運用を安全かつ計画的に行う必要があります。
その上で、安価なガス提供のためには運用に伴うさまざまなコストの削減が必要です。
しかし、そのスケジュール設計ができるのは現場の熟練技術者2人のみ。
そこで関電では、属人化の解消とコスト削減に向け、DeNAのAI技術を取り入れることにしました。
なぜDeNAだったのか?どのようにAIの技術設計までプロジェクトを進めたのか。
関西電力株式会社の岡垣 義也さんとDeNAスマートシティ統括部エネルギー&モビリティ事業推進部の永田 健太郎に話を聞きました。(以下、敬称略)
永田健太郎(以下、永田)
関電さんとはまず最初に石炭に関する類似のプロジェクトの実績があり、そこからLNGも、という流れになったんですよね。
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岡垣義也(以下、岡垣)
そうですね。石炭でもLNG同様、効率化や属人化に課題があり、それを改善するためのプロジェクトが既にスタートしていました。それを「LNGでもできないか?」と姫路第二発電所から要望があり、検討を始めたというのがきっかけです。
綿密な「燃料運用計画」でLNGタンクを運用
永田
では、まず姫路第二発電所内にあるLNG基地(以下、姫路LNG基地)でどんなことが行われているか教えてください。
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岡垣
姫路LNG基地には7つのタンクがあり、海外から入ってくるLNGを貯蔵しています。
貯蔵されたLNGは発電所をはじめ、一般家庭や工場向け、さらには遠方のお客様にLNGを運ぶローリー車と呼ばれる輸送車向けといった、複数の用途に向けた払出しラインがあります。
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永田
ただ、届いたLNGを無作為にタンクに受入れ、払出せばいいという訳ではない……。
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岡垣 各々のラインには払出すガスの品質基準があります。海外から送られてきたLNGは産地によって品質がまちまちで、それをそのまま払出すことはできません。
基準を満たすように、各タンク内のLNGの品質を調整しなければならず、タンクへの受入れの段階から受入れ後の混合まで、緻密なスケジューリングが必要です。調達するLNG量と品質、各用途に向けて払出す量、運用時に発生するコストや手間など、さまざまな条件を考慮しながら計画を練っています。
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永田
基準を満たすように品質をコントロールしないと、別途コストの高いLPGを混合して調整する必要がでてくるんですよね。
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岡垣
はい。そこで現場では、いつどのような品質のLNGをどれだけ受入れる予定なのかを把握した上で、各ラインの日々の払出し量と、品質基準を満たすためにどのタンクにどれだけの量を受入れ、どのように混合するのかといったことをスケジューリングする「燃料運用計画」を日々練っています。
認識していた2つの課題
永田
当時、課題が2つあったんですよね。
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岡垣
「燃料運用計画」は、表計算ソフトを使用し、日々手動で作成しています。さまざまな条件がある中で、安全かつ効率的な計画を練るのは難易度が高く、LNGのタンク運用を知り尽くした熟練技術者2名しか計画を立てられないことがひとつ。
そしてもうひとつがコスト面。品質基準をはじめとするさまざまな運用ルールを満たしながらもコストを抑えた計画を立てることは非常に複雑で、人手では限界があるという課題もありました。この2点をクリアすべく、DeNAさんにお願いすることになりました。
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永田
お話しをいただき、まず社内のデータサイエンティストたちに相談しました。ゴールイメージや運用の環境、運用上のルールなどの質問を洗い出して岡垣さんにお送りし、それに返答をいただいて、といった作業を何度か繰り返した後、アルゴリズムの検討方針を中心とした最終的な提案に持っていきました。
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岡垣
提案を受けてからやろうとなるまでは、結構短かったですよね。
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永田
ご相談いただいてから2ヶ月くらいで本格的にスタートした感じですね。
業務を効率化するにあたり、現場から反対されるようなことはありませんでしたか?
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岡垣
現場はとても協力的でした。印象的だったのは、実際に「燃料運用計画」を作成している熟練技術者の方が言っていたことです。「いつも100点の計画を立てたいと思っているけれど、さまざまな制約があって80点かもしれないと思いつつ妥協しなければいけないこともあり、後ろ髪を引かれることが多々あるんだ」と。
半日くらいかけて次の一ヶ月分の計画を練るのですが、他の業務を抱えながら日々突発の計画変更の対応に追われるため、なかなか思い通りの計画を立てられないこともあったようです。現場のそういったニーズを満たすことができる施策でしたので、いいものが導入される、と捉えられたようです。
現場からのヒアリングで明文化されていないことを可視化
永田
課題の解決策をご提案するにあたり、明文化されていない情報も丁寧にご説明いただきました。
例えば、LNGのタンクへの受入れ方法の切り替えパターンや、さまざまな設備操作の組み合わせのOK/NGのパターンなどです。これらは関電さんの社内でも整理して明文化されていないことだったと思うのですが、どのようにご用意いただいたんでしょうか。
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岡垣
ひたすら現場にヒアリングしました。熟練技術者の計画の立て方など、全て聞き出してマトリックスに整理し、抜け漏れなくまとめることに徹しました。
ヒアリングを重ねる中で、通常の運用ルールに従う場合の他、時としてイレギュラーな手法を講じざるを得ないことがあるという話もあり、そういったレアケースに関することなども全部お伝えしましたね。
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永田
こういったさまざまな運用上のルールを、体系的にまとめて提示していただいたおかげで、僕もデータサイエンティストもスムーズに業務を理解でき、プロジェクトを滞りなく進めることができました。
具体的な改善点と課題解決へのアプローチを具体化
岡垣
具体的に何をどうやってコスト削減を達成していくのか、というのは一緒に決めていきましたね。
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永田
削減すべき主な対象はある程度明らかだったんですが、実際それがどうやって改善できるのかが漠然としていたので、まず課題の輪郭を浮かび上がらせるようなやり取りを重ねていきました。キャッチボールを繰り返しながら徐々に改善点を明確にしていった、という感じです。
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岡垣
問題解決能力の高さは石炭の案件で聞いていました。
ただ、LNGの案件も問題が複雑に絡み合っていて、いくつもある課題をどこから潰していけばよいのか、伝えきれていない感じがしていました。
ですが、DeNAさんはどこに課題があるのかを認識する能力がとても高く、ディスカッションをしていてとても感激した覚えがあります。そういうやりとりをしていく中で、影響が大きそうなものを選定し、それをターゲットにやっていこうという運びとなりました。
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永田
「燃料運用計画」が属人化し過ぎているという話が出ましたが、技術者の工数が減るだけだとインパクトは小さいな、と。
なので、作業を半自動化して業務のハードルを下げつつも、「燃料運用計画」自体のコストメリットを出すことを目標の中心に掲げました。AIに運用の一端を担わせコスト削減を追求しましょう、とご提案させていただきました。
現場も交え、三位一体でコトに向かう
永田
プロジェクトを成功に導くために、現場の方を巻き込むのはとても重要なことだったと考えています。
でも、現場の知識も関係性も何もありませんし、DeNA側からなんとかすることは難しい。
岡垣さんがその点をあらかじめ理解してくださっていて、助かりました。
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岡垣
発電所の方にも毎週の定例ミーティングに参加してもらいました。
そこで、操作画面は現在使用している画面と見た目が同じであって欲しいという要望が出ましたよね。
そういったことは現場にいる人間でないと気づきにくいポイントですし、UIの操作性に関わることは現場の意見が最も重要なので、三位一体で会議してよかったな、と。
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永田
現場の方をいい形で巻き込んでもらえたのは本当によかった。
DeNAからのアウトプットに対して発電所の方からすぐにフィードバックをいただき、それをすぐに修正して再度アウトプットするなど、スムーズなやりとりがプロジェクトにとても寄与したと感じます。
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岡垣
互いに宿題を出し合いアウトプットし、議論しながらいいものを作り上げていきました。
やりとりしていく中でDeNAさんへの尊敬度が高まりましたし、すごく信頼しています。とてもいい関係性が築けているんじゃないですかね。
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永田
発注側と受注側という立場の違いはありますが、それによる変な上下関係が発生することがなくフラットにやりとりできていて、チームとしての一体感がすごくあります。なので、気兼ねなく宿題も出すことができる(笑)。
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岡垣
いいものを作りたいという思いの強さで頑張っていますが、それをこなすのが大変でプレッシャーも感じてます(笑)。
なぜDeNAだったのか
永田
ところで、DeNAへの発注に至ったポイントはどんなところにあったんですか?
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岡垣
「自社の既存製品を使って問題解決できます」というご提案をいただくことがほとんどなのですが、DeNAさんはまずはどういう課題を抱えているのかのヒアリングから始まり、その課題にフィットする解決法を示してくれるところがすごく魅力的でした。
僕らの仕事は一般的な事業会社と違って特殊な業務が多く、個別にカスタマイズされている部分が多いんです。そこをきっちりと汲み取って相応しい提案をしていただけるので「いい結果が出るだろう」という確信が持てたんです。
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永田
そういったご提案ができるのは、データサイエンティストの存在が大きいですね。
他企業へのソリューション提供事業はスタートして間もないこともあり、良くも悪くもかっちりとした製品はまだないんです。なので、ゼロからスクラッチで作る力がある、というのが現在の勝負ポイントと考えてます。
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岡垣
なるほど。
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永田
データサイエンティストがゼロベースで課題に対する最適な解法を見つけ、それを当てに行く。時間はかかりますがソリューションの品質も高まります。
今回の案件のように、細かなカスタマイズが必要で、既存のシステムで解決するのが難しい状況において、DeNAの売りの部分が関電さんの抱えていた課題にフィットした好例となった気がします。
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岡垣
御社内にKaggle Masterがいる、というのもあります。実力に裏打ちされた精度の高いものが出てくるだろうと、安心してお任せできました。
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永田
業務にこういった形でAIを活かしている企業がまだ多くないため、Kaggle Masterの価値はまだ広くは知られていません。
岡垣さんはそのあたりの知識をお持ちだったのですね。
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岡垣
Kaggle Masterやデータサイエンティストについては、プロジェクトを進めていく中で勉強しました(笑)。
永田さんがKaggle Masterのすごいところを一言で言うなら、なんて言いますか?
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永田
「今ある現実の問題を解決する能力が高い人達である」というような説明をしています。
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岡垣
なるほど。調べていくうちに、最新の解法が常にインプットされている人材だとわかったので、現時点で一番いいものを作ってくれるはずだ、と確信できました。
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永田
お褒めいただきありがとうございます(笑)。
そして、技術の設計へ
岡垣
実際に今(2021年5月)PoC(概念実証)の段階ですね。
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永田
既にスケジュールの自動作成は出来つつあります。
パズルゲームをイメージすると分かりやすいと思うのですが、どういう組み合わせだと全体としてうまくいくか、という感じのことです。これはコンピュータの得意分野。
運用環境やリソースなどの条件が決まっていれば、ベストな組み合わせを導き出すのは机上論としては難しい事ではないんです。
ただ、現実にはさまざまな制約があって、簡単にはベストな組み合わせが見つからない中でベターな組み合わせを見つける必要があり、どういったアルゴリズムを使用するかが肝となります。そこがデータサイエンティストの腕の見せ所なんですよね。
泥臭いヒアリングの結果から、問題の性質を見極め、最適な解法を選び出します。
機能やUI面に関しては、先ほどもあった現場の方の使いやすさやメンテナンスのしやすさを念頭に作業を進めている最中です。
運用開始後は常にアルゴリズムをアップデートしていく必要がありますが、利便性を考えてクラウドを使用したシステムを提供しています。
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岡垣
リリースが楽しみです!
DeNAでは、AI技術を使った解法のご提案はもとよりお客様に寄り添い、課題の明確化から運用後のサポートまで一気通貫のサービスづくりを理念としています。
2記事目では、どんなプロセスを経てアルゴリズムを選定していったのか、DeNAのデータサイエンティストが語ります。
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資料提供:関西電力株式会社