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HandyRLの開発でも注目を集めた大渡勝己は今年1月「プロAIアスリート」として活動を開始することを宣言しました。
それまでもフリーランスエンジニアとして多くのAI開発現場で活躍してきた大渡が何を考え、どんな想いのもとにプロ宣言したのか。
そもそもAIアスリートとはどういった職業で、何を目的としているのか。そして大渡のプロ活動をスポンサードする DeNAの意図はーー。
DeNAにおけるAI事業の立ち上げ時から尽力し、現在はデータ本部長として組織全体を統括する山田憲晋、データ本部で大渡とのプロジェクトに長く取り組んできた田中一樹、そして大渡の3名に、プロAIアスリートの活動やそのサポートに至る経緯、知能労働のあり方やAIと社会の関わりや今後の展望を聞きました。
「研究で終わらせず、実応用までコミット」DeNAの二人が考える大渡の魅力
田中一樹(以下、田中)
データ本部の中のゲームエンタメ領域にAIを活用するためのグループを担当しています。
ここ3年ほど大渡さんにジョインしていただき、強化学習を使った案件やゲームの開発に取り組んでいます。
大渡さんとは「逆転オセロニア」のゲームAI開発から生まれたHandyRLをはじめとして、まだリリースされていない新規ゲームの開発現場などでもご協力いただいているのですが、本当に刺激を受けることばかりなんです。
新しい技術をキャッチアップして業務で使うとか、こういうケースではこの技術を使うといいよとか、アイデアの引き出しが常にあふれている印象ですね。
大渡勝己(以下、大渡)
ありがとうございます。
AIにおける「強化学習」分野をメインに、ゲームAIの専門家として主に活動してきて、DeNAではゲームAIをメインとした強化学習の技術開発や、それをどう活かしていくかということについて、一緒に取り組んでいます。
DeNAの現場では、自分の専門分野であるゲームAIと強化学習の知識が活かせているのを感じていますし、田中さんと一緒に取り組んだHandyRLの開発でも手応えを得ることができました。
日々の業務を通じ、理念をわかりあえるDeNAと協力関係を築けたことは、自分としてもとてもありがたいことですね。
山田憲晋(以下、山田)
データ本部は、DeNAの全事業やサービスを対象にデータ活用とAI応用を主導していく部門になります。
AIの中でも強化学習は、非常に専門性の高い研究開発分野です。
強化学習を実サービスで活用していくためには、新しいものを生み出す高い研究能力と同時に、それをサービス上で安定かつ高性能に動作するように開発する実装能力が必要になります。
大渡さんのように強化学習分野で研究能力と実装能力の両方を持つ人材は非常に稀有です。
研究として新しいアイデアを考えられても、それをサービスで使える形で実装できなければ意味がありません。
そんな特別な才能をもった大渡さんと出会えて、DeNAの業務に関わってもらえることを本当に嬉しく思っています。
大渡
ありがとうございます。
エンジニアの肩書きを持ちつつAI競技のフィールド中心に活動していく中、AI競技を経験した自分だからこそ見せられる世界があるな、と思ったんです。
AIをとことん追求して能力を向上させ、その素晴らしさを世の中に知らしめたい。
それにはどうすればいいか、と考えた末に、2022年1月にプロAIアスリートの看板を掲げて活動する決意を固めました。
プロとして活動する「AIプロアスリート」とは?
山田
最初に聞いた時は「なんだそれは?」っていうのが正直なところで(笑)。
ただ、常に高みを目指して挑戦し続ける大渡さんの取り組みを見ていると、確かにアスリートが切磋琢磨し続けている姿と重なるな、と思いました。
田中
僕もAIアスリートっていう言葉を最初に聞いた時は戸惑いました。
でも、例えば陸上のアスリートは記録更新のために肉体を強化したり、テクニックをアップデートしたりしています。
そういう視点で見ると、大渡さんの活動とシンクロする部分は多いんですよね。
賞金をかけて能力や技術を競っているのに、そこにプロを名乗る人がいないよねというように、なぜAIの領域にプロはいないんだろうということは、前から大渡さんと話していました。
なので、プロ宣言はしっくりきたし、業界の第一人者として活躍してほしいという気持ちでいます。
大渡
プロAIアスリートというポジションを思いついたきっかけの1つは、大学時代に真剣に取り組んでいた運動部での活動経験です。
マイナースポーツですが、実業団チームがいくつか存在していて、当時はそこでプレイするのが日本最高峰のステージとされていました。
でも最近はプロ宣言する選手が何人も出てきたんです。
そんなふうに自分のあり方を変えることができるんだなあと、刺激を受けました。
結果を出すためにトレーニングを連綿と続けて試合に臨み、賞金を獲得したり企業に協賛してもらったりして生活の糧とする。
同じことがAI業界でもできるんじゃないかと思ったんです。
田中
日々鍛錬を積み重ねてコンペティションで結果を出す、という点では確かにアスリートに近いものを感じます。
強化学習はAI自らがデータの収集活動を行い、自分が強く賢くなるために努力する、っていう技術なので強化学習自体もアスリートと言えますよね。
大渡
結果が出なくてもひたすら努力を続けられる「AIの姿勢」には本当に感心しているんです。
例えば最初の30万試合に全然勝てなくても、その後からいきなり勝ち始め、そしてどんどん強くなっていく。
AIの辞書には諦めるっていう文字はないんですよね(笑)。
僕はこのハートの強さにすごく惹かれているところがあります。
山田
わかるような気がします。
AI自身が試行錯誤しながら成長していくのが強化学習の特徴ですしね。
「Kaggle」のAIコンペティションでは、正解データが存在し、機械学習を使ってその正解をどれだけ高精度に予測できるかを争うという問題が一般的です。
強化学習では、自身の環境を柔軟に学習してだんだん成長したり、AI同士が戦いながら強くなるなど面白い特徴をもっています。
大渡
この、AI同士が戦いながら高め合っていくこととスポーツという感性が自分にはぴったりくるんです。
僕は自分が作り上げるAIに対して、人間同様ひとつの人格のようなものとして向き合っています。
競技に勝つためにどう成長させていくか。
競技者ではあるけれど、コーチに近いかもしれませんね。
DeNAとしてプロAIアスリートを支援するワケ
山田
DeNAは、プロAIアスリートである大渡勝己のスポンサーに就任しました。
この契約は、大渡さんが持つ人としての価値や能力、大きな観点での社会貢献などに対して出資しているのが大きなポイントですね。
AI業界全体を総合的に発展させていくための、大渡さんを通じた支援として我々は捉えています。
田中
社会貢献っていうのはすごくしっくりきます。
大渡さんの活動によってAI業界が今以上に活性化し、それによって世の中が良い方へと向かう。そういう未来への投資のようなイメージですね。
大渡
アスリートっていうとどうしても競技の方にフォーカスされがちですが、AIを発展させていくことが僕に課された大きなミッションの1つだと捉えていますし、それが人類の成長につながるとも思っています。
そういう観点で社会貢献と受け取ってもらえる人がいれば、応援していただけると嬉しいですね。
山田
今までもオープンソースの形でAIのライブラリーを共同開発したり、新しい技術を開発した時には学会に論文投稿して知識を広く共有したり、サービスにおけるAIの新しい活用法を生みだしたりしてもらってきました。
AIを使って今までとは違った価値を届けようという大渡さんの活動を見ていると、今までにはなかった全く新しいプロダクトが生まれるんじゃないか、というワクワク感を得られるんです。
大渡さんが生み出す価値は唯一無二だし、応援したくなる魅力も持ち合わせている。
存在そのものがDeNAにとっても大きな価値があると考えています。
大渡
プロAIアスリート宣言をするにあたり、強化学習に専念することにしました。
今は強化学習について自分の軸を深めるものや、技術の習熟、勉強などに時間をかけています。
あとはあらゆるものに触れ、それを伝えるための表現を磨いていきたいと。とにかく自分の世界を広げて、これまでできなかったことや、エンジニア視点では知り得なかったところを見るようにしています。
もちろん、そこで得た知見の全てをAIに活かしていきたいという意図です。
山田
我々としては、大渡さんが今AIでできることの限界を超えた新たな価値を生み出してくれるんじゃないか、というところにとても期待しています。
将来の夢を語るとすると、メタバースの中で動く人であるバーチャルヒューマンをAIで作るというのはありますよね。
人はメタバースに完全なリアルを求めているのではなく、自分にとって楽しい、心地よい空間を求めていると思います。
これは、単に仮想空間上に場を提供して、リアルな人々同士がコミュニケーションするだけでは実現困難だと思っています。
バーチャルヒューマンが楽しいコミュニケーションを演出することで、メタバースをより楽しい空間にできると思います。途方も無い夢ではありますが、そんな夢を見させてくれるのが大渡さんです(笑)。
大渡
かつてはワクワク感に溢れた夢のような存在として語られていたAIも、今ではずいぶんと身近になりましたよね。
それにより、逆に現実味が帯びたと言いますか、ワクワク感が下がったように思われていると感じることが残念で……。
だからいま一度、AIの魅力を世の中にリマインドしていきたいんです。
AIが社会実装されてきたからこそ、その点をずっと伝えていかなければ、と思っています。
競技に関わるかどうかに限らず、AIに魅力を感じてもらえるようにアピールしたいですね。
プロAIアスリートに期待すること。成し遂げたいこと……
田中
日本はAI技術が遅れていると言われていますが、大渡さんにはそこを打破してもらいたいんです。
プロAIアスリートとして先陣切るからには、グローバルにインパクトを与えるところを目指して欲しいですね。
もちろん、DeNAも大渡さんに見捨てられないようにがんばらないと(笑)。
個人的にも大渡さんの姿勢や意識の持ち方にいつも刺激を受けていますし、見習うところが多いのを感じています。
山田
大渡さんが日本で最初のプロAIアスリートとして世の中に出たことで、それに刺激を受けてAIアスリートをこころざす新しい人材が出てくるとうれしいですね。
スポンサードするのは DeNAじゃなくてもいい。
こういう活動が広がっていくことで切磋琢磨しあい、AIの技術進展がより早く進むような世の中になるといい、と思っています。
大渡
AIに抱く感覚は人それぞれだと思いますが、決して無機質なものではない、というところは強調したいですね。かなりのエネルギーやパワー、可能性を持ち合わせた存在なんですよ、と。
僕はAI研究を通して今までにはなかった知見を得ましたし、それによって人生も変わりました。
そういった自分が得られた経験や感動を、プロAIアスリートの活動を通して世の中に伝えていきたいですし、何より、AIの素晴らしさをより多くの人に知っていただけたら嬉しいです!
Katsuki Ohto
https://katsuki-ohto.com/
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