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「キャリアの積み方が新しいロールモデルとなる」とデータ統括部長の加茂雄亮(以下、加茂)が推す人物がいます。 その人、AI技術開発部の加納龍一(以下、加納)は、前職在籍時に始めたKaggleをきっかけにDeNA TechConに参加し、その流れで2018年、DeNA に入社しました。
加茂は「事業部と深く連携したAI導入への取り組み、グループマネジメント能力、仕事とアカデミア研究者との両立。この3つ全部のバランスが取れているところに加納さんの凄さがある」と言います。
加納がなぜ“新しいロールモデル”たり得るのか、その理由を対談を通しお届けします。
加納(右):
前職在籍時に、ソフトウェアエンジニアとして機械学習をキャッチアップしたいと思い始めたKaggleをきっかけに、DeNAに入社しました。色々な業務に携わらせていただきましたが、最近はライブストリーミングを担当しているグループのリーダーを経て、ゲームエンタメを担当するグループのリーダーをしています。
加茂(左):
00年代初頭からWeb、RIA開発に従事し、業界誌に寄稿・技術書を複数著作する等の活動後、2013年DeNAに入社しました。ソフトウェアエンジニアを経て、DeNA初のAI開発部門とそのプロジェクト開発などの立ち上げに参画後、全社におけるAIとデータ関連部門を統括しています。
さて、突然ですが、私はエンジニアをよく車に例えるんですよ。
エンジニアリング力が片方のタイヤ、もう片方は業務推進力で、情熱がエンジン、といった感じに。技術的専門性はライトで、これはほとんどの人がロービームです。
じゃあハイビームの人はどういうタイプかというと、ズバリ、加納さんみたいな人(笑)。つまり、かなり遠くまで視野を広く照らすことができる存在です。
これは加納さんの持つアカデミアの部分が大きいのかな、と思っています。さらにエンジン馬力も高くて、他のメンバーもみんな一緒に引っ張ることができているイメージが私の中にはあるんです。すごく稀少な存在です。
加納:
光栄ではありますが……とても恥ずかしいです(笑)。
加茂:
そんな加納さんの素晴らしさを世の中に知ってもらいたくてこの対談を企画しました。手始めに、事業部の課題解決のためにAIを導入した話をしていきましょうか。
事業にコミットするキーワードは「入り込み、見つける・解く・使ってもらう」
加納:
僕がリーダーを務めていたグループは機械学習技術を『Pococha』や『Voice Pococha』といったDeNAが提供しているライブストリーミングのサービスに対して適用していく、という業務に取り組んでいました。
いくつかある中で一番深く携わっていたのは、規約違反を見つけるための効率化プロジェクトです。ものすごい数のライブ配信が同時に行われているため、人間が違反行為をチェックして回るのは物理的に不可能。そこにAIの力を活用し、効率よく違反行為を見つけるシステムを開発しました。
加茂:
『Pococha』がものすごいスピードで成長していく一方、カスタマーサポートの負担も急増していました。リソースが限られる中で「サービスをどうスケールさせていくか」という事業部側の課題と、「何かAIで解決できる問題があるのではないか」というAI技術開発部側の考えがマッチした案件でしたね。
加納:
僕らのチームは「事業に入り込み、見つける・解く・使ってもらうの全てで価値提供する」というミッションを掲げているんです。
つまり、事業部の方々はAI技術に精通しているわけではないので、AIに何ができるのかについては明るくないし、具体的な提案が上がってくることは少ないです。
なので、AIのスペシャリストとして、事業に入り込みながら課題を見つけ、見つけた課題に対して“解く力”を提供し、事業部と共に機能活用方法に関する議論も行う。全てに深く入り込んで成果を作り出す、ということです。
技術はあるけれどもビジネスのことは何もわかりません、という人は良しとしない。そういったスタンスで仕事に取り組んでいます。
加茂:
そもそも、事業部と深く連携してAIを導入していくという作業自体がとても難易度の高いことなんですよね。事業へのAI適用がうまくいかなかったらその先の話に進むこともありませんし、私たちAI技術を担当する身の存在価値にも関わってきます。
そういった意味で、技術力と事業推進力の両輪持って走れる人材は少ないのが実情です。でも、それができるのが加納さん。加納さんのような人材を僕は増やしていきたいと思っているし、DeNAはそういう人が評価されるべき会社であるとも思っています。
加納流、タレント揃いのチームマネジメント術
加茂:
グループリーダーとしての加納さんは、インターフェースが柔らかい、という印象があります。問題を組み立てるための道筋を論理的に柔らかく伝えてあげることができている。なかなかできることじゃないんですよ。
課題を抱えていたりパフォーマンスを上げられなかったりするメンバーもいる中で、チーム全体を考え、支えながら進めていける粘り強さも持ち合わせているし。ピープルケアやマネジメントがしっかりできているように思います。
加納:
マネジメント経験自体も初めての中、大きな問題なく最初の1年をやり切れたのは、心から信頼できるチームメンバーのおかげだと思っています。
みんな自己研鑽の姿勢を持っているんです。チームには、各種のスペシャリストが集まっています。
例えば、KaggleのGrand Masterもいれば、AtCoderに長けてる人もいますし、トップカンファレンスの論文通していたり、知見を外部発信することでものすごいインパクトを残しているようなメンバーもいたり。
加茂:
マネジメントする上で心がけていたことはありますか?
加納:
チーム全体の成果を最大化することはミッションですが、そこのみではなく、メンバーそれぞれの成長やキャリアにもコミットすることを自身に課しています。
メンバーは会社の中、さらに僕のグループの中で、「ここにいる意味」をそれぞれが考えていると思うんです。掲げるロールモデルや目標は各々で違いますが、そういった話をメンバーとは積み重ね、それが叶うようなアサインだったり挑戦的な取り組みに配置してみたり、ということは意識的にやってきました。
加茂:
いかにメンバーを打席立たせるか、その打席をどう意味づけするのかがマネージャーの仕事ですしね。エッジの効いた人たちへの打席は、どう作るかによってかなりキャリアが変わってきますもんね。
加納:
“解く力”のレベルはかなり高いと思っているので、それをグループとしてどうやって最大価値に昇華させていくかは、今でも日々学んでいるところです。そんな中で加茂さんが運営されているビルドトラップレビュー会や各種のマネージャー会 はとても参考になりました。
加茂:
これまで「スーパーマンのような人たち」が力技でやってのけていた知見を共有し、次の世代に伝えていかないと組織としてスケールしないと思い、AIプロダクトマネージャーやグループマネージャー向けに、1年ぐらい前から始めたレビューする会ですね。
「どうしたらAIプロジェクトが成功するのか」、つまり、なぜスーパーマンがスーパーマンたりえているのかを分解したうえで、役割やタスク、必要なことを、適切な人に割り当てられてアクション出来ているかや、「どういう観点を持つか」「成長曲線の描き方」などををレビューしています。
加納:
案件に関して気をつけるべきポイント、マネージャーとしての振る舞い、ゴールの定義の仕方、事業をどう設計するのか。組織全体を通して知見が横展開されていたので、走りながら学んでいくことができました。また、この1年間で僕と同じく初めてマネージャーになったメンバーが5人いたのも心強かったです。
加茂:
次に加納さんのアカデミックな部分について教えてください。加納さんが大学院に通い始めたのは2020年でしたよね。
加納:
僕は天文学専攻で大学院の修士過程を経て社会人になったのですが、人生の中のどこかで絶対に博士号を取ろうという気持ちがありました。
天文学と今の研究が全く関係ないかというとそんなこともなく、人工衛星で観測した星のデータ解析やそれに伴うフィッティング(最適化)に取り組んできていたので、データ分析や機械学習に通づるものがあったのかなと感じています。興味の根源は、やはりデータを用いて最適化技術を通じて何かを実現する枠組みそのものにあるのかなと思います。
加茂:
研究内容についてもう少し詳しくお願いします。
加納:
機械学習にはモデルというものがあるのですが、それはものすごいパラメータを持った一つの構造なんです。そのモデルが近年急激に大きくなっていて、教科書的にはパラメーターの数が大きくなると過学習という現象が発生して予測の精度は落ちるはず、と言われていました。
でも実際はそういうことになっていない。ChatGPTのような素晴らしいモデルがなぜうまく動いているのか、まだほとんど解明されていないんです。僕はその裏づけをするための研究をしています。
加茂:
理解ができないものは受け入れられない、という人は少なくない。そんな中、ブラックボックスだった部分が解き明かされることで、人類として一歩前に進めるののではないか、というのはワクワクしますね。
それにしても、仕事をしながら研究に取り組んでいるのがすごい。大学や研究機関に籍を置いて専業でやられている方がほとんどじゃないですか? タイムマネジメントはどうしているんでしょうか。
加納:
業務とは独立した個人の取り組みなので、僕は平日はフルタイムで働いて、夕方から研究しています。うまく時間管理をしながら業務と自己研鑽を両立するスキルは、会社での仕事経験から身についてきているように思います。
そんな中嬉しかったことは、機械学習に関する国際学会「ICLR」に、僕の論文が2年連続で採択されたことです。ハードルが比較的高いと言われている査読を通って受理されたのは、成功体験ですね。
加茂: ここ最近、ロールモデルが多様化しているのを感じています。今までは、Kaggleを突き詰めて事業適応する技術を磨いていく人、アカデミア方面に振り切る人と、キャリアの考え方は両極端でした。でも、加納さんのように事業適用とアカデミアの両輪でやっていこうとする人が出てきた。そういう人が今後どんどん増えていくのではないかと思っています。
自分の通ってきた道を誇らしいと思える、そんなキャリアを築きたい
加茂:
改めて整理すると、加納さんは問題や目標を組み立てる力が強い、ということです。それは技術やマネジメントに対してだけじゃなく、人生において、問題や目標を組み立て、そこに向けてひたすら走っていける。そんな印象を受けました。最後に加納さんが今の目標を教えてください。
加納:
将来、キャリアがある程度終わったときに、自分が走ってきた道を振り返って誇らしいと思えるか、ということを常に意識しています。自分たちのミッションや発揮する価値について妥協することなくしっかりと考え、それを成果として結びつけることができるようになる、ということを大切にしていきたいです。
DeNAではこれまで『Pococha』『Voice Pococha』以外にもタクシー配車アプリの『GO』に携わってきました。そこでの経験は誇らしいことだったと感じていますし、DeNAでこれから携わることや新しい挑戦に関してもきっと誇らしいものになるだろうと確信しています。ここまで一緒に働いてきたメンバーも、この先一緒に働くことになるだろう方々も、誇らしかったと思ってくれると嬉しいですね。
加茂:
DeNAのエンジニア採用は、エンジニア自身が面接を行なっていますよね。今在籍しているエンジニアは、今加納さんが言っていたような素質を持っているメンバーがほとんどです。だから、彼らが一緒に働きたいと思える人、つまりこの志に共感できる人、さらに先を見据えられる人と一緒に働きたい。
加納さんのような志を持った人がみんなを引っ張っていくことで、そういった空気が醸成されることを望んでいますし、そういった空気をDeNAの文化にしていきたいですね。