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GIMPEI KOBAYASHI データサイエンティスト Kaggle Expert
ASAKO NISHIYAMA ソリューション事業本部ストラテジックマーケティング統括部マーケティング部マーケティング戦略グループ

昨年の後半くらいから画像生成やテキスト生成などのAIサービスが世の中を賑わせています。特にOpenAI社が11月に公開したテキスト生成AI・ChatGPT(GPT-3.5)、それに続くGPT-4の登場は「21世紀の産業革命」と言われるほどに世界に衝撃を持って受け止められました。

翻って2021年。DeNAのAI事業部ではGPT-2を利用し、テキスト生成AIの運用を開始。他に先駆けてデジタルマーケティングに導入し、既に目覚ましい成果をあげているといいます。

現場ではどのようにAIを活用し、それによってどんな変化が起きたのかーー。
AIの設計に携わったデータサイエンティストの小林銀平(以下、小林)、そしてデジタルマーケティングチームのグループリーダー・西山朝子(以下、西山)に、AI×マーケティングによる新しい価値創出について聞きました。

GPT-2を用いたテキスト生成で、これまでの「こんなものか…」を覆す

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小林:
AI事業部でデータサイエンティストをしています。新卒でポータルサイトのデータエンジニア兼データサイエンティストとして就職しました。その頃から広告×AI業務に携わっており、その頃の経験を活かしつつ、DeNAには2018年に入社してからは、AIを用いたマーケティングの課題解決と新ビジネスの創出に携わっています。

西山:
DeNAの全事業を横断してマーケティングを行うマーケティング統括部に所属し、デジタルメディアプランニンググループのGLを担当しています。2019年入社後、複数のゲームタイトルのデジタルマーケティングを担当し、2021年からデジタルマーケティンググループのマネージャーに。
現在の組織は全社横断部門になっており、各事業のデジタルマーケティングに携わっています。入社から現在まで一環してデジタルマーケティング領域に携わっており、AIチームと連携してデジタルマーケティングを行う取り組みを始め、今に至ります。

データを活用して広告を最適化したり改善したりすることで、より効果的なマーケティングを実行できると考えています。このデータ活用のレベルをグッと上げることができる技術が「AI」で、そのAIを用いてデータをさらに活用することで、今までできなかったことができるようになったり、パフォーマンスを大きく改善することができたりすると考えています。

また、各広告媒体にもAIの技術は使われており、デジタルマーケターとしてAIを理解することは、広告コントロールのためにも必要な知識だと考えていたため、AIチームと連携できないかと相談をしたのがきっかけでした。

小林:
デジタル広告はGoogleやYahoo!のような、広く使われているプラットフォームを通して発信することになるので、こういったサービスを持つ会社さんが圧倒的に強いんです。
僕は前職は広告会社に入社したのですが、SNSなどの違った軸を持ちつつそこにAIを組み合わせることで、既存のビッグテックにはない広告というか新しいマーケティングの価値を生み出せるのではないか、と考えていたタイミングで相談をいただきました。タイミングも本当によかったと思います。

西山:
相談させて頂いた際には、デジタルマーケティングチームが当時抱えていた課題について、AIチームのヒアリングを受けつつ問題点の洗い出しをしていたんです。その中でも、広告テキストの作成にかなりの時間を費やしていることをお話ししたら「それならAIを使って解決できるかも」と。当時は5人で100本の広告テキストを作成していましたし、効果的なテキストをつくり出すのは本当に大変でした。

小林:
2020年の前半頃ですね。ちょうどテキスト生成AIの活用法を模索していたタイミングだったので、活かせる技術がある!と。
人間が今までつくってきた広告のテキストの特徴をうまく取り出し、それを元に、広告の参考テキストをつくる、という作業をAIに担ってもらおうと考えました。

christmas_text GPT-2を活用した広告テキスト作成フロー

西山:
広告テキストはシーズンによってトレンドワードがあるので、シーズン毎に成果が良かったテキストの全データを共有し、トレンドワードを取り入れたテキストを大量に生成してもらえるようお願いしました。まずはバレンタイン向けのテキストを実験的に生成していただいたのですが……。

小林:
最初にword2vecっていうアルゴリズムを使用し、広告で多く使われている単語を入れ替えることで多様性をつくるアプローチにしたところ、それが全然ダメでした。

西山:
正直、生成されたものを見てチームのみんなで「んー……こんなもんか……」と少し落胆しました。でもGPT-2に切り替えてから、すごく自然な文章になりましたよね。「これなら使える!」と思ったのを覚えています。

W word2vecによる出力例

小林:
2020年の前半は、GPT-3の一部利用は始まっていましたが、日本語があまり得意ではありませんでした。
日本語としてちゃんと生成できるAIで当時最も強かったのがGPT-2。これを取り入れたのがターニングポイントになりました。

Google Adsで成果が出やすい!目に見える成果

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西山:
今まで私たちが思いつかなかったようなテキストをAIが生み出してくれるのですが、そのバリエーションもすごく広い上に、作業時間が圧倒的に少なくなりました!体感で1/10くらい。また、成果は配信量で見ていますが、人間がつくったテキストよりもAI技術をベースにしてつくったものの方が配信量が出てるんです。ユーザーの反応もいいからプラットフォーム側にも評価されるし、結果、露出数も増加。すごく効果が高いクリエイティブができているのを感じています。

小林:
生成したテキストをベースに作ったテキストは本当にパフォーマンスがいいのか、より多くの人に評価されるのか、実はこれはAI自身もよくわかってなかったりするんですよね。なので、生成AIを評価するAIもつくったんです。
今までに得られたデータを元に「こういう文章だったら例えば100万人ぐらいは見てもらえるよね」「いやこれくらいだと1000万人行くよね」といった感じで、生成されたテキストをベースに作ったテキストに点数付けをさせる。そういったふうに、最も良いパフォーマンスをトレンドに合わせてテキストを作成できるよう設計しました。

例えば、クリエイティブをつくるとき、PocochaにはPocochaならではのクセみたいなものがありますよね。サービスごとにあるコンセプトや雰囲気、つまりトンマナをちゃんと踏襲し、学習させた上でアウトプットできるような仕様にしています。

サービスの理解度が低い中、例えば20代女性をターゲットにすると、サービスの色に関わらずキラキラしたクリエイティブや絵文字いっぱいでハートが出る、といった具合に単一のパターンになりがちなんです。
社内の情報や今までつくってきた資産を活用できたことで、AIがより人間らしいクリエイティブをつくれ、人間のサポートをする形に展開できたと思います。

西山:
独自のチューニングができるのは、かなりの強みだと思っています。
ただクリックされやすい広告文を考えるのは簡単です。でも、DeNAではブランディングを大事にしていますし、本当の意味でサービスのファンになってもらいたいと思っています。特にPocochaのサービスは、コミュニケーションアプリというイメージをしっかり保ちつつ、成果が良いクリエイティブをつくらなくてはいけません。
AIのおかげでそういったメッセージングを考えることに割く時間が増え、クオリティのアップにも繋がっているのを実感しています。

成功の鍵は“引き算”のコミュニケーションと密な連携

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西山:
そういったトンマナの共有やゴールの共有という意味では、2年以上続けている週1回30分の定例MTGなどの密な連携に尽きると思います。
今までもマーケチームからAIチームにスポットで依頼する、という事例は何度かありましたが、そこでたびたび出てきてしまうのが、マーケターの目線とAIチームの目線のちょっとしたズレでした。そのズレが修正されないままできたシステムは、残念ながら効果的にワークしないという事態が起こりがちなんですよね。

この取り組みについては私たちの課題感や仕事の内容も共有しながら進めてきたので、AIチームもこちらの事情を深く理解してくださっています。このコミュニケーションをずっとし続けていることが今の結果に繋がった気がしますが、小林さんはどう思いますか?

小林:
まさにですね。MTGでは近況報告や日常の出来事などの雑談をしつつ、業務では今どんなことやっているのか、今後はどんな予定なのかなどをヒアリングし、どこかにAIをうまく当てられるかなといったことを一緒に考えるようにしました。
できそうなことは抽象的に簡単に伝え、実現難易度はAIの方で把握しておく、みたいなことは気をつけたかな。

また、僕自身のキャリアもうまく作用したかもしれません。前職でもテキストクリエイティブに関連する作業をシステム的に解決した経験があったので、相手の土台に入り込んで解像度高くすることができたと思います。
それから、西山さんのいうように、コミュニケーションですよね、やっぱり。必要以上に専門的な細かい難しいことを言わず、できるだけ簡単に相手の負担にならないように伝える、というのは心がけています。

西山:
その引き算してくださるコミュニケーションはとても助かっています。極論、マーケチームは細かい技術的な仕様については知らなくてもいいと思ってます(笑)。
小林さんが私たちの意図を汲んで組んでくださっているので、上がってくるシステムに信頼を置いていますし、こちらから細かく仕様について聞いたりする必要がないんですよね。

そういった結果、AIもマーケもそれぞれのチームでこの取り組みについての評価が担保されてきましたよね。どちらかに「お願いする」のではなく、お互いWin-Winになる良い結果が関係が取れてるな、と感じられるところもいいのかなと思っています。

AI技術×マーケティングの新しい可能性を開拓し続けるために

西山:
マーケティングでよく言われるのが「誰に、何を、どう届けるか」ということです。その「何を」の精度を上げることができたのが今回の取り組みでした。次のステップとして「誰に」のターゲティング、「どうやって」のプランニングのところで評価をしてもらうAIの設計を既に進めてもらっています。今後もマーケチームの仕事を深く理解していただけるようにしっかり連携して、いろいろとご提案いただける体制をキープしていきたいです。

小林:
何かを企画する部分は人間だからこそできる部分だと思われてきましたが、ペルソナを考えたり、それに対してのターゲティングも行ったりできるようになることで、今後は企画そのものもAIがサポートできるようになれるようにしていきたいですね。

戦略を考える部分から最適な運用までをAIが提案して、それを人間が適切にチェックするループシステムを「ヒューマン・イン・ザ・ループ」というのですが、そのループを綺麗にストレスなく回せるようになると、AIによる作業も可能性がより広がると考えています。
マーケの力を強化できるような提案をしていくよう、こちらもがんばっていきたいと思っています。

また、AIを使ったデジタルマーケティングを、より最大化させるためにも、AI技術を使ってさまざまな事業にコミットしていきたいと考え、それを一緒に模索できる人材探しは引き続き行っていきたいです。
事業と組み合わせて自分の知識や経験を活用したい方と、また新しいAIを使ったデジタルマーケティングを開拓していきたいです。

西山:
AI技術がデジタルマーケ分野で活かせることがわかったこの取り組みを通して感じたのは、DeNAがミッションとして掲げている「Delightを届ける」ための方法や届けられる人の幅が広がるということです。
AIが人間の作業を助けてくれることによって、より多くのDelightをつくったり、お客様へのサービスレベルを上げたり、面白いものをつくるための時間を増やすことができたように思います。

AIを使ったデジタルマーケティングは未知の分野。全てがチャレンジですので、果敢にチャレンジしていく姿勢を大事にしています。DeNAにはAIのスペシャリストはもういます(笑)、なので、技術について詳しくある必要はなくて、目まぐるしく変わる環境にワクワクできる方やチャレンジ精神が旺盛な方と、デジタルマーケの新しい可能性を模索していきたいですね。


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